患者の自己決定権を尊重するということは、いうまでもなく患者の責病気の受容任を重くすることであり、その意味では慢性病患者は社会的義務を解除されないばかりでなく、医療のトナとしての義務と責任をも強く求められていることを忘れてはならないのです。
とくに障害者の場合、障害をもちながら社会復帰を望むことは多かれ少なかれ危険を覚悟することであって、「リスクを冒す人間としての尊厳」を求めることであるといわれますが、慢性病一般についても自己決定権は「リスクを冒す人間としての尊厳」の考え方を含むものであることを承認しなくてはならないと考えるのです。
ここに至って初めて、患者や障害者が社会的差別を乗りこえたということになるでしょう。
また慢性病の場合は、患者は医者とともにいわば治療共同体を形成するわけですから、患者としての主体性を確立するための一定の努力が要求されます。
昔から積極的に病気に立ち向かう精神闘病心ということが強調されてきましたけれども、慢性病患者(及び障害者)にまず必要なのは、病気とそれによる社会的役割の変化を正しく受容することでなくてはなりません。
これはしばしばきわめて困難な心理過程ですが、病気についての情報を率直に受け入れ、また同時に治療の場における自らの立場をも受け入れなくてはなりません。
医者に対して「知らされた上の同意」を与えるだけではなく、いわば病気そのものに対しても「知らされた上の同意」を与えなくてはならないのです。
たとえば障害についても、キュプラロスの死の受容の場合にならって、ショ。
ク↓否認↓意識混乱↓解決への努力↓分離への不安↓適応、というような段階を分けている人がありますのに対してだけでなく治療に対しても求められます。
慢性病の場合は狭義の治療だけでなく、食事や生活の規正を伴うことが多いわけですから長期にわだって辛抱強い自発的努力の持続が要求されますが、そのための第一歩は病気の正しい理解の上に立った受容でなくてはなりません。
受容とともに大切なのは、依存性からの脱却です。
病気が長期にわたると、ともすように、社会復帰が医学的には可能な患者が病院のベッドを長く占領しているという、特にわが国でしばしば見られる現象は、他にもいろいろな原因があるにしても、病院依存の顕著な例であるといわなくてはなりません。
病気の受容と依存性の克服とはモチベーション(意欲)につながりますが、これを前提として初めて、積極的な慢性病治療のプログラムを組むことが可能になるのです。
成人というモデルは、患者の権利主張にとどまるのではなく、義務の確認を意味することを改めてもう一度強調しておきたいと考えます。
このように、慢性病治療における患者個人の主体性が強調されなくてはならないりません。
わが国では結核患者やハンセン氏病患者が早くからいわゆる患者団体をつくって行政当局や病院に対して要請や要求を行い、またいろいろな社会的発言を行なってきましたが、最近は薬害やいわゆる難病に関する多くの患者団体ができました。
アルコール中毒患者は断酒会をつくっていますし、喉頭癌によって声帯を失った患者たちの団体では、患者同士で食道発声の訓練などをしています。
盲人の組織などでは昔から、職業的リハビリテーションの場面で同じような活動を行なっていました。
アメリカの自立生活センタでは障害者自身が責任をもって施設を運営し、障害者のカウンセリングや訓練をも行なっています。
単に差別に抗し、権利を主張するだけでなく、社会的義務を積極的に果しているのです。
重度心身障害児や精神病患者など親幼児関係あるいは親一年長児関係に相当するモデルの場合には、家族会が組織されています。
とにかく、市民として生活者としての慢性病患者の自覚と行動が、今や注目すべき社会実践となろうとしているのです。
このような全体の文脈の中で病気を考え「患者の役割」を考え、いのです。
いずれにしても、健康者あるいは患者に対して研究的なアプロチを試みょうとする場合は、その研究を計画し実行しようとする研究者あるいは研究者グルプが医学専門家としての良識と自信の上に立って直ちに実施に取りかかることが許されないのです。
研究が、気の毒な患者を救い人類の福祉に貢献しようとする正しい意図で行われるとしても、研究者がひたすら善意をもち、またきわめて慎重に研究を計画したという確信をもっていても、さらに研究者がすでに多くの輝かしい業績をもつ著名な学者であっても、とにかく対象として人間を扱う研究であるかぎり、独り歩きを許さず第三者よりなる委員会の審査が要求されるのです。
それは、熱心な研究者というものはともすれば過信に陥り勇み足になりがちですから冷静な外部からのチェックを必要とするということでもありますが、同時に、科学研究よりも人権を優先すべきであるという原則の表明でもあります。
医学研究者を含めて医者は古くから聖職者、法律家とならんで代表的なプロフェダソヨン知識・技術を正しく評価するだけの能力を欠いているだけに一層プロフェッション内部での相互規制が厳しく行われていなくてはならないのです。
いってみれば「倫理性についても技術性についても専門家の間で深く相いましめていますから、一般市民の方は安心して私たちにおまかせ下さい」と公言できる立場に自らを置く努力が必要不可欠なのです。
各国の実情審査委員会は、まずこのような科学者自らの立場の自覚から始まったものと考えることができるでしょう。
アメリカでは医学研究費の大部分が国立医学研究所を通じて国費でまかなわれている事情もあって、国が施設委員会の組織や機能を定め、かつその運営を監視していますが、ヨーロッパでは学会や各施設や地区の保健組織が自主的なワク組みをつくっている場合が多いようです。
日本でもしばらく前からとくに新薬の委託研究に関連して類似の審査委員会を施設内に作ろうとする機運が起こっていますが、日本弁護士連合会や海老原昭夫さんの調べたところでは、とにかくそれらしいものを設置しているところは五%程度にすぎず、設置されている場合でも独立委員会、施設委員会等の名に値するような厳格な組織をもち潔癖な運営がなされているものは更に少ないようです。
アメリカの場合などでは研究当事者はとくに説明を求められた場合以外、審査会に出席できないことになっているだけでなく、申請者と個人的関係のある者もその研究計画の審査に加わるべきでないとされ、決定は多数決によるという原則が定められています。
また審査委員会は研究開始の許可を与えるだけでなく、研究の進行過程をも監視する義務を負っています。
その上、連邦政府からの研究費による研究の場合や新薬についての臨床研究の場合は、厚生省に相当する政府機関が委員会の内容をチェックする仕組みになっています。
ところが、日本では事がなかなかこのように厳正に運びにくいようです。
もっともらしい審査委員会を作っても、議題となった研究テーマに最も精通しているのは研究計画の審査を請求した当人である場合が多いものですから、審査委員会に出席した当事者が洽と弁舌をふるい他の委員がひたすらこれを傾聴しているという形になりやすいのです。
受験生と試験官が同じでは、とうてい公平な第三者的審査は期待できないでしょう。
なぜわが国ではこの種の審査の機能が正しく働かないのかということについて話し合ったことがあります。
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